消防法第8条において、防火管理者とは、多数の人が利用する建物(防火対象物)の「火災による被害」を防止するために必要な安全対策を定め、防火管理上必要な業務を行う責任者です。
この記事では、飲食店開業に防火管理者の資格が必要なのかを述べ、その役割や取得方法についても解説していきます。
防火管理者とは?定義と役割
防火管理者の定義
【意味・定義】防火管理者とは
防火管理者とは、防火対象物の防火管理に関する講習の課程を修了した者等一定の資格を有し、かつ、防火対象物において防火管理上必要な業務を適切に遂行できる管理的又は監督的な地位にある者で、管理権原者から選任された者をいう(消防法第8条)。
出典:総務省 防火管理制度
防火管理者は何をする?なぜ必要?
上述したように、防火管理者は、防火管理上必要な業務を行います。防火管理者の業務は、建物の火災による被害を防止するために必要な役割です。
防火管理者の具体的な業務は、以下のとおりです。
防火管理者の業務
- 消防計画の作成と、作成した消防計画を所轄消防長又は消防署長への届け出をすること。
- 消防計画に基づく以下の防火管理業務をすること。
- 消火、通報及び避難の訓練の実施
- 消防の用に供する設備、消防用水又は消火活動上必要な施設の点検及び整備
- 火気の使用又は取扱いに関する監督
- 避難又は防火上必要な構造及び設備の維持管理
- 収容人員の管理
- その他防火管理上必要な業務
- 必要に応じて当該防火対象物の管理について権原を有する者の指示を求めること。
- 消防の用に供する設備、消防用水若しくは消火活動上必要な施設の点検及び整備又は火気の使用若しくは取扱いに関する監督を行うときには、火元責任者その他の防火管理の業務に従事する者に対し、必要な指示を与えること。
参照:消防法施行令第3条の2
参照:消防法施行規則第3条
全ての飲食店で防火管理者の選任が必要?
防火管理者の選任が必要かどうか?
全ての飲食店で防火責任者の選任が必要なわけではありません。防火管理者の選任が必要な施設(防火対象物)のうち、飲食店は、次のものが該当します(消防法施行令第1条の2第3項第1号ロ)。
【意味・定義】防火対象物とは
防火対象物とは、劇場・飲食店・店舗・ホテル・病院など不特定多数の人が出入りする用途(特定用途)がある防火対象物を「特定用途の防火対象物」といい、そのうち、防火対象物全体の収容人員が30人以上のもの(*)をいう。
(*)「火災発生時に自力で避難することが著しく困難な者が入所する社会福祉施設等(消防法施行令別表第一(6)項ロに掲げる防火対象物の用途)を含む防火対象物のうち、防火対象物全体の収容人員が10人以上のもの」を除く
飲食店の場合、収容人員が30人以上の場合は、防火管理者が必要です。収容人員が29人以下のお店の場合は、防火管理者の資格や届け出は必要ではありません。
防火管理者資格には2種類ある
収容人員が30人以上の飲食店の場合、防火対象物全体の延べ面積によって、防火対象物区分が2つに分かれます。
- 甲種防火対象物
- 乙種防火対象物
そして、防火対象物区分ごとに、必要な防火管理者の資格が定められています。
防火対象物全体の延べ面積 | 300㎡以上 | 300㎡未満 |
---|---|---|
防火対象物区分 | 甲種防火対象物 | 乙種防火対象物 |
防火管理者資格区分 | 甲種防火管理者 | 甲種又は乙種防火管理者 |
延べ面積によって、取得が必要な資格が異なりますのでご注意ください。
防火管理者を選任しないとどうなる?罰則はあるか?
防火管理者を選任しないと六月以下の懲役又は五十万円以下の罰金
防火管理者の選任の義務がある場合に、選任をしていない場合、防火管理者の選任義務が規定された消防法第8条第1項違反となります。
この場合、「消防長又は消防署長は、第一項の防火管理者が定められていないと認める場合には、同項の権原を有する者に対し、同項の規定により防火管理者を定めるべきことを命ずることができる」とされています(消防法第8条第2項)。
なお、ここでいう「同項の権原を有する者」とは、いわゆる「管理権原者」のことです。飲食店の場合は、建物が自社物件・賃貸物件のいずれであっても、飲食店のオーナー(建物の所有者・建物の賃貸人)が該当します。
【意味・定義】管理権原者とは
消防法上の管理について権原を有する者(管理権原者)とは、防火対象物について正当な管理権を有し、当該防火対象物の管理行為を法律、契約又は慣習上当然行うべき者をいいます。
管理権原者は防火管理の最終責任者になります。
【管理権原者の例】
- 建物の所有者
- 建物の賃借人
- 共同住宅の場合は所有者及び各住戸の居住者など
出典:管理権原者とは
この消防法第8条第2項の命令に違反した管理権原者には、「六月以下の懲役又は五十万円以下の罰金」が科されます(消防法第42条)。同様に、建物の「使用の禁止、停止又は制限」が命令されることもあります(消防法第5条の2第1号)。
このように、防火管理者の選任をしない場合、所轄の消防署から命令を受けたり、罰則の対象となるため、速やかに防火管理者の選任を行いましょう。
防火管理者は何人必要?複数店舗の場合は?
防火対象物に対して、防火管理者は1名選任されます。また、複数店舗ある場合には、防火管理者を兼任することも可能です。
ただし、それぞれの防火対象物に対して、防火管理上必要な業務を行う必要がありますのでご注意ください。
防火管理者になるための資格取得方法は?
誰でもなれるのか?誰がなるのか?
防火管理者になるためには、2つ要件があります。
- 防火管理上必要な業務を適切に遂行することができる管理的又は監督的な地位にある方
- 防火管理に関する知識及び技能の専門家としての資格を有している方
1については、アルバイトやパートなどで勤務する方は、管理や監督的な地位にはないので当てはまらないでしょう。経営者や店長など、防火管理に関する業務を適切に遂行できる管理・監督の地位にある方が、防火管理者になる必要があります。
2の資格については、以下が対象となります。
防火管理者になることができる資格一覧
- 都道府県、消防長、登録講習機関等の行う防火管理講習を修了した者
- 学校教育法による大学又は高等専門学校において総務大臣の指定する防災に関する学科又は課程を修めて卒業した者(当該学科又は課程を修めて同法による専門職大学の前期課程を修了した者を含む。)で、1年以上防火管理の実務経験を有するもの
- 市町村の消防職員で、管理的又は監督的な職に一年以上あつた者
- 労働安全衛生法第11条第1項に規定する安全管理者として選任された者
- 防火対象物点検資格者に必要な防火対象物の点検に関し必要な知識及び技能を修得することができる講習の課程を修了し、免状の交付を受けている者
- 危険物保安監督者として選任された者で、甲種危険物取扱者免状の交付を受けているもの
- 鉱山保安法第22条第3項の規定により保安管理者として選任された者(同項後段の場合にあっては、同条第1項の規定により保安統括者として選任された者)
- 国若しくは都道府県の消防の事務に従事する職員で、1年以上管理的又は監督的な職にあつた者
- 警察官又はこれに準ずる警察職員で、3年以上管理的又は監督的な職にあつた者
- 建築主事又は一級建築士の資格を有する者で、1年以上防火管理の実務経験を有するもの
- 市町村の消防団員で、3年以上管理的又は監督的な職にあつた者
- 前各号に掲げる者に準ずるものとして消防庁長官が定める者
出典:消防法施行令第3条第1項
出典:消防法施行規則第2条
一般的な飲食店では、防火管理講習を受けた者が、防火管理者に選任されていることが多いと思われます。
防火管理者資格取得のための講習とは?
次に、防火管理講習修了者になるための、防火管理講習について説明していきます。
防火管理講習の実施者には、以下の3つがあります。
講習修了資格は全国共通となります。
都道府県によって、防火管理講習の実施者が異なりますので、詳細については、管轄の消防署で確認してください。
講習の内容は?
前述したように、防火管理者資格は、「甲種防火管理者」と「乙種防火管理者」の2種類あります。一般財団法人日本防火・防災協会の講習内容を、それぞれ紹介していきます。
甲種防火管理者
講習種別 | 甲種防火管理新規講習 |
---|---|
概要 | 甲種防火管理者として選任されることができる資格を取得するための講習 |
講習時間 | おおむね10時間(2日間講習) |
講習内容 | 防火管理の意義及び制度 火気管理、施設・設備の維持管理 防火管理に係る訓練及び教育 防火管理に係る消防計画など* 受講申込み時の申請により一部科目の受講が免除される資格あり |
乙種防火管理者
講習種別 | 乙種防火管理講習 |
---|---|
概要 | 乙種防火管理者として選任されることができる資格を取得するための講習 |
講習時間 | おおむね5時間(1日間講習) |
講習内容 | 防火管理の意義及び制度 火気管理、施設・設備の維持管理 防火管理に係る訓練及び教育 防火管理に係る消防計画など上記の講習事項のうち、基礎的な知識及び技能 |
講習の日程、申し込み方法、受講料は?
講習の日程、申し込み方法、受講料に関しては、開催する実施者により異なりますので、管轄の消防署で確認してください。
例として、日本防火・防災協会の講習の日程、申し込み方法、受講料をご紹介します。
日程 | 都道府県により異なる |
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申し込み方法 | インターネットもしくはFAXによる申し込み |
受講料 | 甲種防火管理新規講習:8,000円 乙種防火管理講習: 7,000円 |
【補足】再講習の受講とは?受講期限は何年?
収容人員が300人以上の飲食店を含む特定防火対象物において、防火管理者に選任されている甲種防火管理新規講習修了者は、再受講が必要になっています(ただし、講習以外で資格を取得した方は、再講習を受講する義務はありません)。
出典:一般財団法人 日本防火・防災協会 防火・防災管理再講習について
防火管理者講習の再講習の受講期限には、選任の日と講習修了日によって、次の2つのパターンがあります。
防火管理者講習の再講習の受講期限
- 防火管理者に選任された日の4年前までに防火管理新規講習又は防火管理再講習を修了した方の場合は、防火管理者に選任された日から1年以内
- 上記以外、つまり防火管理者に選任された日の4年以内に防火管理新規講習又は防火管理再講習を修了した方の場合は、防火管理新規講習又は防火管理再講習を修了した日以後における最初の4月1日から5年以内
参照:甲種防火管理者防災管理者
なお、防火管理者が防災管理者の講習を修了した場合は、特例があります。
具体的な再講習の受講義務・受講期限は、管轄の消防署でご確認ください。
防火管理者は消防署への届出が必要
防火管理者の選任・解任をする場合は届出が必要
防火管理に関する知識及び技能の専門家としての資格を有した(講習を受講した)だけでは、防火管理者の選任が完了したことにはなりません。
防火管理者の選任には、「防火管理者の選任届」を、所轄の消防署への届出が必要です。具体的には、管理権原者は、「防火管理者を定めたときは、遅滞なくその旨を所轄消防長又は消防署長に届け出なければならない」とされています(消防法第8条第3項)。忘れずに行いましょう。
防火管理者を解任される場合にも、同様に届出が必要です(消防法第8条第3項)。変更届の様式や届出についての詳細は、管轄の消防署で確認してください。
防火管理者の届出をしないとどうなる?罰則はあるか?
防火管理者の選任・解任の届出を怠ると三十万円以下の罰金又は拘留
防火管理者の選任や解任の届出を怠った場合、管理権原者には、「三十万円以下の罰金又は拘留」が科されます(消防法第44条第8号)。
このように、防火管理者の選任・解任の届出をしない場合、罰則の対象となるため、防火管理者を選任・解任した場合は、すぐに届出を行いましょう。
まとめ
飲食店の開業において、収容人員が30人以上の場合は、防火管理者が必要です。防火管理上必要な業務を適切に遂行することができる管理的又は監督的な地位にある方で、防火管理に関する知識及び技能の専門家としての資格を有している方(講習受講の修了者)を選任し、所轄の消防署への届出を忘れずに行いましょう。